新商品を1店舗で4週間、試売した。報告には「80個売れました。採用でよいと思います」とあります。ところが、同じ棚の既存品は前の4週より70個減っていました。途中の2日間は、補充が間に合わず欠品していました。この結果から、採用してよいと言えるでしょうか。
第4回では、商品部と店舗が同じ数字で話すための前提をそろえました。今回は、その数字を使って判断する試売を、販売を始める前にどう設計するかを考えます。目的、比べる商品群、実施条件、判定基準、結果を受けた次の行動を、開始前に決めておく準備です。以下の商品・数量・店舗は、説明用の架空例です。
1.試売は、全店に広げる前に設計を確かめる仕事
新商品を入れることは、商品を一つ増やすことにとどまりません。商品構成ではその商品に持たせる役割と入れ替える商品を、棚割では置く場所とフェース数を、売場維持作業では発注・品出し・補充の手順を変えます。第4回では、この三つの設計を結ぶ枠組みをRetail-BOMと呼びました。
試売は、この設計の変更を全店へ広げる前に、限られた店舗と期間で確かめる仕事です。確かめるのは「売れたか」だけではありません。商品の仮説が正しかったか、設計どおりに実行できたか、その変更が商品群と売場全体にとって得になるかです。
これを開始前に決めずに始めると、結果が出てから判断の基準を探すことになります。出た数字に合わせて基準を後から決めれば、どの結果でも採用に見えてしまいます。基準を先に決め、結果を見て設計を改め、確かめた方法を次の導入の標準にする。この循環を、担当者が替わっても回せるようにすることが、チェーンストアの工業化の一つの形です。
2.まず、試売するかどうかを決める
試売は、すべての新商品に必要なわけではありません。メーカーの後継品、社内で事前に決めた基準を満たす販促が付く商品、購買動機が同じ商品との入替は、旧品との違い・根拠・承認を残したうえで試売を省き、導入後の確認に回すことができます。ただし、商品名やメーカーの説明だけを根拠にはしません。品質・容量・価格・供給・作業の違いを確かめてからです。
一方、これまでにない用途を持つ商品や、品質・価格・商品構成を大きく変える場合は、売って確かめる必要があります。どちらの根拠もそろわないなら、無理に始めず保留にします。足りない情報、確かめる担当者、再確認の日を残します。
試売を省いた場合も、導入して終わりではありません。導入後の確認日と担当を決め、前提と違う結果が出たら、条件の修正、試売への切替、撤退を判断します。
3.目的を一文にし、比べる商品群を決める
試売する場合は、確かめたいことを一文にします。例えば「少量で選びたいお客様に小容量のレトルトカレーが選ばれ、カレーの棚全体の荒利高が増えるか」です。目的がはっきりすれば、何を記録すればよいかが決まります。
次に、比べる範囲を決めます。新商品の販売数だけを見ても、冒頭の例のように、同じ棚の既存品から売上が移っただけなのかが分かりません。入れ替える既存品と、同じ用途の代わりになる商品を含めた商品群を、商品コードの一覧として開始前に固定します。新商品は、導入前は「未取扱」です。データが取れていないこととは区別します。
4.実施条件を、開始前に固定する
次の条件を、販売を始める前に書きます。
- 店舗:試売する店と、売場を変えない比較の店。規模、客数、品揃え、販促の条件が近い店を選びます。
- 期間:導入前と導入後の比較期間と、途中の確認日。期間を途中で変えた場合は、その理由を残します。
- 売価と表示:売価、容量当たりの価格の見せ方、売場の表示。同じ期間に特別な値引きや別の販促を重ねると、商品の力と販促の力を分けられません。
- 棚:置く場所、フェース数、入れ替える商品。棚の幅と段は変えないなど、変える範囲を決めます。
- 補充と在庫:初回の数量、発注単位、納品の間隔。補充できない設定のまま、商品が売れるかどうかを判断しないためです。
- 記録と担当:何を、誰が、いつ記録するか。試売を設計して記録をまとめる人、売場で実施して例外を記録する人、数字を照合する人、採否を決める人を分けます。
試売店で欠品や陳列の遅れが起きたら、その日と内容を記録します。条件どおりに実施できなかった期間を、黙って集計から外すことはしません。一方で、その期間の結果を、商品の力の評価と混ぜることもしません。「条件が成り立たなかった」ことと「商品の仮説が外れた」ことは、別の問題として扱います。
5.判定基準と、結果の後の行動を先に書く
採否は、新商品の販売数だけでなく、入れ替える商品と同じ用途の商品群全体の荒利高、在庫、補充の作業負担、お客様の選びやすさを合わせて判断します。そのうえで、結果ごとの次の行動を先に決めておきます。
- 採用候補:条件どおりに実施でき、商品群全体で得になる根拠がある。
- 条件を変えて再試売:棚・価格・供給など直せる原因があり、何を変えて何を確かめ直すかを説明できる。
- 撤退:条件どおりに実施しても商品群にとって得にならない、または供給や作業の問題を解消できない。
- 判定保留:記録が足りない、条件が成り立たなかった、販売数が少なく結論が安定しない。
採用候補になっても、すぐに全店の棚を替えるとは限りません。1品目や数品目の入替は、作業のコストを考え、年に1〜2回のカテゴリーセット(カテゴリー全体の品揃えと棚割を見直す時)にまとめることを原則にします。販売数量や売上高に大きな効果が見込める場合は、期中に替える場合と次のセットまで待つ場合の利益を、同じ期間でくらべて決めます。試売の終了は、全店展開の指示ではありません。
次の表は、冒頭のような場面を開始前に整理した架空の記入例です。自社の条件に置き換えてください。
決めておく項目 | 記入例:小容量のレトルトカレー |
|---|---|
試売するか | する。少量で選びたいお客様という、これまでにない用途を確かめるため |
目的 | 少量で選びたいお客様に選ばれ、カレーの棚全体の荒利高が増えるか |
比べる商品群 | 新商品、入れ替える200gの既存品、同じ用途の既存品を、商品コードで固定 |
店舗・期間 | 試売店1店と比較店1店。導入前4週と導入後4週。1週目に実施確認、2週目に中間確認 |
売価・棚・表示 | 既存品の2フェースを、新商品1・既存品1に変える。容量と用途が分かる表示を付ける。値引きは同時に行わない |
補充・記録 | 初回数量と発注単位を決めてから開始。日別・商品別の販売数量、荒利高、在庫、欠品、補充の追加時間を記録 |
判定と次の行動 | 商品群全体で判断する。採用候補なら次回のカテゴリーセットに入れる計画を作る。直せる原因があれば条件を変えて再試売。条件が成り立たなかった期間は分けて記録 |
判断する人 | 商品部で採否を決める権限を持つ担当者。開始と終了の承認も同じ人が行う |
冒頭の例に戻ります。新商品が80個売れても、既存品が70個減っていれば、商品群としての増加は10個です。容量の小さい新商品は1個当たりの荒利高が小さいこともあり、棚全体の荒利高はほとんど増えていないかもしれません。さらに2日間の欠品があったなら、その期間は条件が成り立っていません。開始前に比べる商品群と判定基準を決めていれば、出てくる判断は「採用」ではなく、「欠品の原因を直し、同じ条件で確かめ直す」だったはずです。
6.AIに集計を任せる時も、条件を先に渡す
社内で利用を認めたAIや集計アプリで試売の結果をまとめる場合も、比べる商品群の一覧、期間、原価の求め方、欠品した日を、元データと一緒に渡します。新商品の数字だけを集計させると、既存品から売上が移った分を見落とします。AIには条件の食い違いや記録の欠けを指摘させ、採否は決めた担当者が判断します。
今週、自分の仕事で試すこと
次に導入を検討している新商品を一つ選んでください。まず、試売するか、根拠を残して省くかを決めます。試売するなら、上の表の八項目を、商品部と店舗の関係者で埋めます。
埋められない項目があれば、それが開始前に確かめる論点です。特に「比べる商品群」と「判定と次の行動」は、販売を始めてからでは決めにくい項目です。試売が終わったら、決めた基準で判断し、その結果と理由を記録してください。次の導入では、その記録が判断の出発点になります。
続けて読む・学ぶ
次回11月2日は、論考「チェーンストアの工業化とは何か」をお届けします。

