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Retailing Works.チェーンストアの工業化を考える

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経営コラム

同じ数字を見て話すための準備

2026年10月19日

商品部の資料には「120個」、店舗の報告には「144個」と書かれている。同じ商品の販売数量を見ているつもりなのに、数字が合わない。このままでは、追加発注をするか、売場を広げるかを話す前に、どちらの数字が正しいかを調べることになります。

第3回では、誰が決め、誰が実施し、誰が確認するかを整理しました。今回は、その人たちが判断に使う数字の前提をそろえます。店舗・商品・日付・数量・金額の五つを、同じ意味で読めるようにする準備です。以下の数量や店舗名は、説明用の架空例です。

数字の前提をそろえると、商品部が決めた商品構成や棚割を、店舗で実行した結果と照合できます。どこを直すべきかを部門をまたいで判断し、次の設計へ戻すための準備として考えます。

1.数字をそろえるのは、設計と実行を確かめるため

顧客が必要な商品を、買いやすい価格で、必要な時に買える売場にする。そのために、商品部は何を扱うかを決め、棚割で場所と陳列量を定め、物流と店舗が供給と補充をつなぎます。各部門の仕事がつながって初めて、一つの売場が成り立ちます。

私は、商品構成・棚割・売場維持作業を結ぶ設計の枠組みをRetail-BOMと呼んでいます。例えば、A店で500mLの新商品を扱うなら、商品構成ではその商品に持たせる役割、棚割では置く場所とフェース数、売場維持作業では発注・品出し・補充の手順を決めます。同じ商品を扱う三つの設計として、つながりを確認できるようにします。

その設計を売場へ反映するには、商品登録、入荷、棚替え、担当者への説明などの準備も必要です。誰が、いつまでに、何を終え、何の完了を確かめて次へ進むかをそろえる。ここでプロジェクトマネジメントの考え方を使います。準備が遅れた時の判断担当者と、開始を延期する条件も決めておきます。

では、販売数量が計画を下回ったら、何を直せばよいでしょうか。商品の選び方や陳列量に無理があったのか、入荷や補充が計画どおりに進まなかったのか、それとも比較した数字の期間が違うのか。この三つを分けて調べるには、商品・店舗・期間・単位をそろえた実績と、売場で何を実施したかの記録が必要です。数字の定義がそろっただけで、原因まで分かるわけではありません。

設計をそろえ、実行を確かめ、結果を見て設計や手順を改める。この循環を担当者が替わっても続けられる組織にすることが、ここで伝えたい工業化の考え方です。手戻りや無理な作業を減らし、生産性の向上を、顧客への価値と働く人の待遇・成長へつなげていく。その判断の土台として、数字の前提をそろえます。

2.何を決めるための数字かを先に決める

数字を集める前に、今回決めたいことを一文にします。例えば「A店の新商品について、来週の発注数量を増やすか」です。

その判断には、販売数量だけでなく、今ある在庫、入荷予定、売場の欠品、販促の予定なども必要になります。一方、作業の負担を判断するなら、入荷したケース数や品出しの所要時間も見ます。目的によって、必要な数字は変わります。

全社の資料を一度に統一しようとすると、決めることが増えます。まずは一つの商品、一つの判断に使う数字から始めます。その数字を作る人と使う人が、同じ条件を説明できることを目指します。

3.店舗・商品・日付をそろえる

店舗は店名だけでなく、店舗コードで特定します。全店の合計か、対象店舗だけか、休業店を含むかも明らかにします。店舗を比較するなら、営業日数や販促の有無など、条件の違いを併記します。

商品は、商品名、規格、JANCDなどを照合します。同じ名前でも、容量や入数が違えば別の商品です。棚割指示書ではJANCDの下5桁・下4桁を表示する場合がありますが、データの照合には省略していないコードを保持します。短い表示で重複する商品を、同じ商品として集計しないためです。商品コードは計算する数値ではなく識別子として扱い、先頭の0も残します。

日付は、販売日、納品日、データを取り込んだ日を分けます。「昨日の売上」と書くだけでなく、対象の営業日と締め時刻を決めます。日付をまたいで営業する店舗では、どこまでを一営業日とするかもそろえます。

冒頭の例で、同じ開始日から数え、商品部の120個が一昨日まで、店舗の144個が昨日までの累計だったとします。昨日の販売が24個なら、集計期間を合わせることで数字は一致します。違っていたのは集計の終わりです。期間が一致しても差が残る場合は、対象商品、返品、反映待ちなどを順に確認します。

4.数量と金額の中身をそろえる

数量には、個、パック、ケース、重量などがあります。「2ケース」と「24個」は、1ケース12個なら同じ数量です。ただし、ケース入数は商品ごとに異なり、変更されることもあります。換算に使った入数と、その適用時期を確認できるようにします。

また、発注数量、納品数量、販売数量、在庫数量は、同じ「数量」でも意味が違います。販売数量は返品を差し引くのか、在庫数量はどの時点のものかを決めます。システム上の理論在庫と、店頭で数えた実在庫も区別して扱います。

金額は、税込か税抜か、値引きや返品をどう扱うかをそろえます。元の実績が返品差引済みなら、重ねて差し引かないようにします。売上高と仕入金額を取り違えず、荒利高を使うなら、原価の求め方と計上時期も確認します。帳票の見出しが同じ「売上高」でも、集計条件が同じとは限りません。

販売数量が増えていても、値引きが増えたのか、販売できた日数が違うのかで判断は変わります。数字をそろえたうえで、その数字が生まれた売場の条件を確かめます。

5.数字の定義と出どころを一枚にする

毎回口頭で確認する項目を、短い記入表にまとめます。次は、一つの新商品の週次実績を見る場合の架空例です。自社の帳票と運用に合わせて置き換えてください。

確かめる項目

記入例

判断すること

A店の新商品について、来週の発注数量を増やすか

店舗・商品

店舗コード001/商品コードで特定した500mLの商品。別容量は含めない

期間・時点

月曜から日曜までの営業日。月曜9時に取得。締め処理が完了した範囲を表示

数量

販売個数から顧客返品個数を差し引く。納品ケース数は、適用する入数で個数へ換算

金額

税抜売上高。値引き後の実売額から顧客返品額を差し引く

出どころ

POSの日別実績。取得日時と元ファイルを記録。欠品状況は店舗の確認記録を添える

未確定・欠損

未取得の営業日は「未取得」。確定した0個と分ける。未確定を含む合計には暫定と表示

確認・訂正

店舗担当が売場の状況、商品部の担当が集計条件を確認。訂正前後と理由を残す

「0」と空欄を同じ意味にしないことが大切です。販売がなかったのか、休業だったのか、データが届いていないのかを区別します。未取得の値を0で埋めると、実績が落ちたように見える場合があります。

欠損があれば対象日と店舗を示し、取得できた範囲と比較の限界を説明します。全部がそろうまで判断を待つのか、限定した範囲で判断するのかは、判断担当者が決めます。

6.AIにも、定義と元データを渡す

社内で利用を認めたAIや集計アプリを使う場合も、この記入表を、利用してよい範囲の元データと一緒に渡します。項目名が似ているという理由だけで、異なる数字を結び付けないようにするためです。

例えば「店舗001、対象商品、指定した営業日の範囲、販売は個単位、金額は税抜、返品は差し引く、未取得は0にしない」と条件を明示します。AIには、条件の食い違いを見つけること、集計結果に元データの所在と未確認の点を添えることを求めます。

AIが出した合計は、まず一店舗・一商品の元データへ戻って確かめます。単位、対象日、返品、重複、欠損がどう扱われたかを見ます。確認できた計算方法と、その方法を使ってよい範囲を残してから、対象を広げます。

定義を変えた場合は、変更日と理由を記録します。過去の数値を計算し直すのか、旧定義のまま残すのかも決めます。どの定義で作った資料かが分からなくなると、前週との比較からやり直すことになるためです。

今週、自分の仕事で試すこと

商品部と店舗で、同じ商品の数字を一組持ち寄ってください。数字が合わない箇所を一つ選び、上の表を埋めます。店舗・商品・期間・単位・計算方法・取得時点のどこが違うかを確かめ、同じ条件で集計し直します。

数字が一致したら、最初に決めた問いへ戻ります。A店の新商品の発注を増やすかを考えるなら、同じ期間の販売・在庫・入荷予定に加え、決めた棚割で陳列できたか、欠品や補充の遅れがなかったかを確かめます。比較条件の違いは集計方法へ、実行上の問題は準備や作業手順へ、設計上の問題は商品構成・棚割・発注基準へ、それぞれ戻して検討します。複数の問題が重なる場合もあります。

今回変えること、決める人、実施する人、次に確かめる日を記録してください。変更後も同じ条件で比べ、続けるか、改めるかを判断します。数字の前提と変更理由が残れば、次の担当者も判断を確かめ、改善を引き継げます。

2026年10月19日改訂:数字の定義をそろえる理由を、商品構成・棚割・売場維持作業の設計、部門をまたぐ実行、検証と改善の関係から説明する節を追加し、導入と結びを補いました。

続けて読む・学ぶ

次回のテーマは「試売の前に決めておくこと」です。目的・比較条件・判定基準・次の行動を、販売を始める前にそろえることを考えます。

佐々木桂一

佐々木 桂一

リテイリングワークス株式会社 代表取締役

リテイリングワークス株式会社 代表取締役。ジェーソン社長として株式上場、大黒天物産副社長として東証一部昇格、富士薬品専務としてドラッグストア事業の売上高3,000億円突破に携わる。バイヤーから物流・IT・経理・人事まで自ら担い、小売業の仕組みづくりを支援。